第5話
「バーンズリー・コーリング」
ケミカル・ブラザーズ、アンダー・ワールド、ファットボーイ・スリム。
意外と新しもの好きなニックも、やはり酔うと原点に戻りクラッシュ。
日本人が酒の席で唄い出す演歌が、ニックの場合パンクなのである。
チューニングのズレたギター、パンパンに張ったドラムのスネア。
勢いで押し切る8ビートが実に心地いい。
フットボールとパンクがリンクすると、彼はイギリス人特有のアドレナリンを出す。
いったんツボに入れば、それはドラッグのようにやめられない。
麻布のクラブ、通りまで溢れかえる賑わい。
ニックはアランを見つけると、早速作戦を練り始めた。
「まずは、お前が入り口で、店の奴に話しかけて注意をそらせる。そのスキに俺が突破するから。」
ニックの作戦とは、実にシンプル。そして極めて子供じみて、セコイだけだった。
「それじゃ、俺はその後どうするんだよ?」とアラン。
「だいじょうぶ、俺がタダで入れてあげるから心配するな。」とニック。
たとえ大人になっても、社会のルールを破って遊ぶ。
それがニックの美学。
スリルのない毎日なんてつまらない。
バーンズリーでも東京でも、そのスタイルは変わらない。
そんなニックを子供の頃から知っているアランは、彼の作戦に渋々うなずいた。
人込みを掻き分けて、狭い階段を降りる2人。
ニックがアランに目で合図を送る。
ニコニコと笑いながら、わざと早口の英語で店員に話しかけるアラン。
戸惑う店員、その一瞬のスキを見て、階段を一気に駆け降りて来たニック。
ドタドタドターッ、ゴツン!。鈍いイヤな音が響く。
入り口上のコンクリートに、思いっきり頭をぶつけてしまった。
「ウゥーッ」押し殺してうずくまるニック、それでも痛みをこらえて店内に入っていった。
あっけにとられるアランと店員。
「だいじょうぶかなあ?」と店員。
タダで入店されてしまったことより、ニックの頭の方を心配していた。
結局、アランは自分の分だけ金を払い入店したのである。
体を張ったダイビングヘッドで勝利を得たニック。
ビール瓶でタンコブを冷やしながらDJブースに歩み寄る。
「おい!ロックをかけろよ!クラッシュはないのか?」
「今日はそうゆうイベントじゃないからー」と呆れ顔でDJ。
ここまで頑張ってやってきたのに、クラッシュはない。
そうなれば自分でやるまでだ。アカペラで「ロンドン・コーリング」を歌い出す。
ギターのイントロから始まり、ベースが入る
「ドゥン、ドゥン、ドゥドゥドゥドゥーン」まで、完全に再現して熱唱する。
クラッシュしたニックが、クラッシュを歌う。
それこそまさに「バーンズリー・コーリング」。
スピーカーから流れる大音響にかき消されても、気にもせず我が道を行く。
それを見ていたアランは、
「ああー、懐メロだー。オヤジだー」とため息交じりに、なぜか大好きな奥田民生を歌い出す。
それぞれの思いをのせて「炭坑ナイト」の夜は更けていくのでありました。
負けるなニック&アラン!がんばれバーンズリー!
|