第6話
「バーンズリー商店」
その日、六本木のスポーツBARには、東京中のイギリス人が集まっていた。
イングランド対ドイツ。因縁の対決、EURO2000。
肩身の狭い思いで、端のテーブルを陣取る数人のドイツ人達。
それを尻目に、雄叫びを上げ、俄然盛り上がるイギリス人集団。
ここは東京、しかし完全にイングランドのホームと化した。
なぜなら、その輪の中にはニックとアランがいるから。
バーンズリー魂を炸裂させ、港区さえもヨークシャーに変えてしまう。
まずはDJの元へ。アランがポケットから取り出した物は「3LIONS」のCD。
「これをかけてくれよ」とリクエスト。
オアシスから核心へと突入した店内は、一気にテンションを上げ、待ってましたとばかりに大合唱。
ますます隅のほうで小さく固まるドイツ人。
当然のことながら、テーブルのビールは、あっという間にカラになった。
入店の時に買ったドリンクチケットもあと1枚だけ。
とてもじゃないけど、試合が終わるまではもたない。
キャッシュで買うにしても、物価は港区。一杯1000円ではチョット高い。
再入場のスタンプを手の甲に押してもらうと、ニックは外に出て行った。
キックオフまで30分、やっとのことで帰ってきたニックはニコニコ顔。
「どこに行ってたんだよ?」とアランが尋ねる。
「コンビニへ行ってきた。苦労したんだぞー」と嬉しそうにニック。
そう言って取り出したものは、コピー用紙の束。
たった1枚しかなかった1000円のドリンクチケットが、ニックの魔法で30倍近くに増えていた。
さすがはニックとばかりに、がっちり握手を求めるアラン。
もうこれで試合に勝ったも同然だ。
しかし、ニックには最後の一仕事が残っていた。
ハサミで一枚一枚切り分けると、丁寧に赤い水性ペンで店のハンコを書き込んでいく。
その器用で手際の良い仕事振りは、まさに職人ワザの一言。
私立高校の英語教師をやっているだけに、ニックの文房具の扱いは天下一品だ。
午前3時45分、試合開始。気づいたら店内は溢れんばかりの人だらけ。
BARカウンターはゴッタ返している。
人ゴミにまぎれて、恐る恐る手作りのチケットを差し出すと、見事に本物のビールが返ってきた。
ニヤリと顔を見合わせた2人。
ハーフタイム、再びBARカウンターはゴッタ返す。
群がる酔ったイギリス人相手にアランが話しかけた。
「ドリンクチケットが余ってるんだけど、500円でいいから買ってくれないか」
またたく間に、口コミでチケットが飛ぶように売れていく。
イギリス人には500円、その他の国の人は700円、但しアメリカ人には800円と、
何だか訳の分からない価格設定で、バーンズリー商店は大繁盛。
うさんクサイ目で見ていた店員に、
「これでお前も、何か飲んでくれよ。俺のオゴリだ。」
と言って手作りチケットを差し出す気前の良さ。
試合にも勝ち、財布もふくれて、満面の笑みを浮かべる2人のイギリス人でありました。
その名は、ニック&アラン!フロム・バーンズリー!
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