第28話

「そして札幌 PART2」


 6/7土曜日、早朝6:18分。オダとスチュを乗せた”特急はまなす”は、ほぼ定刻通りJR札幌駅に着いた。
ここまでの移動時間、車と列車合わせてざっと14時間余り。
さすがの2人も体のあちこちが痛み、寝不足の頭は思うようには働かない。

「着いたよオダさん!」

先に目覚めたスチュが、オダの肩を揺する。
寝ぼけ眼で外に目をやるオダ。するとそこには、おびただしい数のイングランド人達が
駅のホームをゾロゾロと歩いているではないか。
(こんな朝早くから・・・、ここはいったい、どこ?)
少しだけ混乱したオダ、そしてようやく現実を把握した。

ひとまず軽い朝食を済ませ、まずは大通り公園へと向かった2人。
オダがそこで目にした光景は、またしても信じ難いモノであった。
大通り公園の芝の上、そこを占拠した無数のイングランド人達。
ある者はSt.ジョージの旗を布団代わりに、
そしてある者は3ライオンズのシャツ一枚で、そこらじゅうに横たわっている。
中には若干のアルゼンチン人がいるものの、その数明らかにイングランドの優勢。
サマーキャンプさながらのその光景に、興奮のボルテージを一気に上げるスチュ。

「オダさん!俺着替えてくるよ」
(母国イングランドを応援する為、正装すべくスチュは荷物片手に駆けて行く)

「ああ、じゃ俺は缶ビールでも買ってくるから、この辺で待ち合わせな」
(もちろん決戦前にアルコールを摂取しておくのは、正しいイングランド・ファンとしての努めである)

人込みをかき分け、独自の嗅覚で何とかビールを手に入れてきたオダ。
ちゃんとスチュの分まで買って来たというのに、彼の姿はどこにもない。
たまらず缶ビールのフタを開け、1人ゴクゴクと飲み始める。するとそこへ、背後からスチュの声。

「ごめんオダさん、お待たせ〜。まったく凄い人の多さだよね〜」

その声に、おもむろに振り返ったオダは一瞬言葉を失う。

「・・・・なんじゃそりゃ・・・着替えるって、それか?・・・ゲホッゲホッ」
(軽い衝撃に、むせ返るオダ)

着替えから戻ったスチュ、その格好とは。上下が紺色の作務衣に雪駄履き、
しかも頭にはSt.ジョージの旗を、江戸っ子のように小粋に巻いている。
まるで花火職人か、陶芸家さながらのいでたち。

「なんで、作務衣なんだ?」

「エッ!? 何かヘン?」
(自分の姿に全く疑いを持っていないスチュ)

「いや〜〜、ヘンというかさ〜。ユニフォームとかさ〜、何か他にあるだろっ?」
(どこかじれったく、オダはうまく言葉にできないわけで・・・)

「でもさ、俺いつも仕事の時はコレだよ。それに〜何か気合い入るしさ〜」
(自信たっぷりに答えるスチュ)

(こいつ、前世は絶対に日本人だな)軽くホロ酔いの頭で、ぼんやり思うオダであった。
世紀の決戦まで、あと10時間・・・・。


「これが札幌ドームかあ〜」

あれからチケット獲得に奔走し、とりあえず2人分手に入れることはできた。
が、もちろん正規のルートではなく・・・おかげで財布は空っぽ。
おまけにアルコールと睡眠不足のボディブロウを受け、2人は既に疲労困憊。
命からがら何とか会場まで辿り着いたのであった。
会場周辺は厳戒体制、警察に機動隊。いわゆる『フーリガン対策』というヤツにかなりの人数を動員してるようだ。
そしてそれを煽り立てるマスコミも数多く詰め掛け、会場前から中継を行っている。
銀色のドームを目指し、その人込みを掻き分けて歩く2人。
するとスチュを見つけたカメラマンとレポーターが、一目散に彼の元へ走って来た。

「すいませ〜ん! ××テレビです〜、ちょっとお話よろしいですか〜?」

「えっ・・・・・?」
(突然の予期せぬ出来事に、黙り込むスチュ)

「どこから来られました〜?フェア〜ユ〜フロ〜ム?」

レポーターのわざとらしい笑顔とベタな英語に呆れるオダ。

「答えてやれよ〜スッチュ〜(ニヤニヤ)」
(冷やかすように、煽り立てるオダ)

「いや、いいよ〜」
(不自然にカメラから顔を背けるスチュ)

「何遠慮してんだよ〜っ、答えろよ〜」
(終いには、オダの背中に隠れようとする始末。明らかに何かおかしい・・・)

そのやりとりに他のマスコミ連中も気付き始め、あちこちからカメラが押し寄せて来る。

「すいませ〜ん、ウチもちょっと撮らして下さ〜い」
(作務衣姿のイングランド人。そんなオイシイ映像をマスコミが逃すはずもなく・・・。
獲物を見つけたハンターのように、スチュとオダをカメラが取り囲む)

「オダさん!逃げよう!」

「何でだよ〜?」

「いいから、ダメなんだよ〜!!」
そう叫びながらカメラの人垣を強行突破し、スチュは会場の入り口まで一目散に駆けて行く。

会場に入り、息を切らせながらオダは問いかけた。
「何で逃げるんだよ〜? 撮られとけばイイじゃん」

「ダメだよ、俺は入院してることになってるんだから」
(スチュも同じく息を切らせて答える)

「入院? お前、仮病で休んだって・・・入院してることになってんの?」

「そうだよ!だから、カメラに映ってバレたらマズイじゃん!」

「お前、車の中でカッコイイ事言ってたわりに、案外セコイなぁ〜」

「え〜っ、だって、やっぱ仕事無くなったら困るじゃん!」
(誠実そうな顔をして、アッサリ開き直るスチュ。コイツはやっぱりイングランド人だなあ〜、確信するオダであった) 

 そしていよいよ、待ちに待った世紀の大決戦は始まった!手に汗握る興奮の連続!
長い時間をかけて、ここ札幌までやって来た男達。ビデオでもない、TVでもない、生の感動がドームを包む。
そして前半終了間際、オーウェンが倒される。PKだ! 

「オオオオーッ!」
(スチュの雄叫び)

キッカーはもちろんベッカム。しかし、スチュは”あの瞬間”を見ていない。
自分の目の前で、今まさにゴールネットが揺れる瞬間を・・・

「オダさん!まだ〜? 入ったら教えてよ」

そう言って、スチュは両手で顔を覆っていた。
(高い金払って、たくさん時間をかけて、わざわざここまでやって来たというのに・・・、
これを見ないで何を見るんだ!スチュアートよ!大志を抱け!)

「まったくイングランド人ってやつは、どいつもこいつも・・・ったく」

その後、後半開始早々から「オダさん! あと何分? ねぇ、あと何分?」
とまるで、子供のように何度も聞き直し、スチュはろくに試合を見ていなかったらしい。

終了のホイッスル!世界中のイングランド人が、両手を高々と空に突き上げゴッド・セーブ・ザ・クイーンを歌う。
やっと勝利を噛み締めて、スチュも大声で歌い出した。

興奮のルツボと化した札幌ドーム。

「ONE NIL(1ー0)! To The England!」
大合唱は鳴り止まない。すると突然、オダの携帯電話が震えた。電話の向こうからも叫び声が聞こえる。

「オダ〜っ!ファイナルだ〜!」

「えっ?ニックか?」

「やったぞ〜!ゴール裏にあったバーンズリーの旗見たか!」
(興奮して、答えになっていない男)

「で、ニック!結局どこで今日の試合見てたんだよ?」

「エ〜ッ?こうゆう大事な試合はな、オラ1人でじ〜っくり見るだよっ!」
その男、なぜか東北弁。結局ニックは、1人自宅でTVにかじりついていたらしい。

前半にシーマンが守ったゴール裏、所狭しとはためくイングランド国旗。
その中にバーンズリーFCのマスコットであるトビータイクもいた。
遠くヨークシャーから駆け付けて、ベッカムの背中をそっと後押ししていたのである。


スチュ直筆Board&The Ticket!

Oda in The Newspapper!!

特別番外編