第24話
「チョコ・ニック」
ニックが日本を離れられない理由は様々である。
例えば、仕事。英語を教えることに生き甲斐を感じ、日本人の心の中に深く入り込んでしまった。
そして、友人達。夜毎飲み歩く、国籍を越えたアルコール同盟。
それはまるで、国連並みの結束力を持つ。
そして、女性。日本の女性は、決して立ったまま用を足さない(ノース・ヨークシャー限定)。
と、他にも理由は色々あるが、その中でも忘れちゃいけない大事なモノ。
それは、おもちゃ。
ジャパニーズ・TOYS!なのである。
「おもちゃ」?そう、おもちゃ。本来、子供の遊び道具として存在するソレだが。
大の大人が、しかも青い目をした異人さんが夢中になっているから、さあ大変。
「おもちゃ」のせいで、日本から離れられないなんて。本国のママや兄貴が知ったら・・・・・。
でもニックにとって、日本の「おもちゃ」にはそれ程の魅力があるのだ。
クォリティーの高さ、豊富な種類、個性的なキャラクター。中でも手軽に集められる、
お菓子やジュースのオマケ。そしてガチャガチャはとりわけお気に入り。
1000円札でビールを買ったら、お釣は100円玉で貰う。
突然気になるガチャガチャに出くわしても、常に準備を怠らない男。
それがニック。
元炭鉱夫のクセして、この男は意外と細かい。
「おタク」いや「おもちゃ」の殿堂と言えば、「中野ブロードウェイ」であろう。
本家バーンズリーFCのホームがオークウェルならば、東京応援団ニックのホームはナカノである。
スキを見つけては、掘り出しモノのチェックに余念がない。
いったい何が彼をここまで熱くさせるのだろうか?その昔に聞いたことがある。
『最初は友達から貰ったんだ。小さな組み立て式の動物。
そのうちコンビニでついつい買うようになって・・・。気付いたら止まらなくなっていたよ』
まるでカジノにハマって抜けられなくなったかのごとく、ニックのコレクション中毒は歯止めが効かない。
海洋堂の思うツボだ。
今や、大抵の「おもちゃ」の市場価格は、彼の頭の中にインプットされている。
あそこの店ではいくら、別の店ではいくら、といった具合に。
ニックの頭はエクセル並みにフル回転。即買い!見送り!といった判断も実に早い。
マイケル・オーウェン真っ青の瞬発力で、迷路のような「中野ブロードウェイ」を駆け抜ける。
ワールドカップで来日するイングランド代表。ぜひ彼らにも、その奥の深さを教えてあげて欲しいものだ。
ニックの巧みな口車に乗せられて、ベッカムなら食いつくかもしれない。
その豊富な資金力で、マンチェスターに出店させられるかも。
「中野ブロードウェイ」のマンチェスター支店。もちろん支店長はニック。
市場価格を知り尽くした男だけが、唯一与えられる称号。
ある日ニックのコレクションを拝見しに、みんなで彼の部屋を訪ねた。
チョコ・エッグにチョコ・ベーダー、そしてコンプリート済の「永井豪シリーズ」など。
それらは、極めて厳かに、そして見事なレイアウトで展示されていた。
すると、ケースの中から一体のフィギュアを手に取ったニック。真っ赤にペイントされた「デビルマン」。
『これはシークレット・バージョンなんだ。500円を430円に値切ったんだゾ!』
誇らし気に、みんなに見せつけた。
70円安く買ったことに、やたらとこだわる男。そいつに向かって1人が聞いた。
『ところでさニック。デビルマンてTVかマンガで見たことあるの?』
『いや・・・、だって小さい頃はずっとバーンズリーに居たんだから。そんなの知るわけないだろっ!』
逆ギレのニック。
『・・・・・』固まる一同。
何が彼を、そこまで熱くさせるのか?アランさえもわからない。
その答えは、バーンズリーFCの昇格だけが、鍵になるのかも。
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