第23話
「ニックの独り言」
9/30、日曜日のジャパンタイムス。
ニックはいつものようにバーンズリーFCの試合結果を覗き込んでいた。
文字どおりサンデーペーパーである。
インターネットを使えばすぐに結果なんてわかるのに、彼はそれを好まない。
フットボールの結果はやはり新聞なのだ。
イギリスの男は、『The Only Sunday Papers』なのである。
前日のバーンズリーFCは、ホームにポーツマスを迎えてのゲーム。
結果は残念ながら、1対4でバーンズリーの敗北・・・・。
「たのむよスペックマン・・・・・」
タメ息混じりにページをめくると、なんとそこには
『KAWAGUTI・・・・・・・POMPEY』と書かれた記事が。
Pompeyとはポーツマスの愛称である。
よりによってバーンズリーに完勝したその日に、川口の移籍が決定するとは・・・・・・。
何とも皮肉な話だ。ガンバ大阪の宮本と同様、
元ウェストハム監督のハリーレドナップにみそめられた日本人ゴーリー。
「待ってろよ川口!次のアウェイ戦では、お前の守るゴールネットを
タイクスがズタズタにしてやるぜ!」とはニックの独り言。
10/6土曜日。その日は世界中のイングランド人が待ちに待った決戦の日。
前回の宿敵ドイツに大勝して、俄然優位に立ったイングランド。
しかも今日の相手はギリシャ。場所はオールド・トラッフォード。
日本行きのチケットは半分手に入れたも同然。
見守るニックは青山、魂は遠くバーンズリー。
しか〜し、思うようにことは運ばない。まさにフットボールの恐ろしさ。
「なにやってんだーっ!」怒りに震えるニックの独り言。
あたふたとしたバックパスを蹴るDFのキーヨン。
まるで30年前の選手がタイムマシーンでやって来たかのような、時代錯誤のプレイスタイル。
「この下手クソ野郎!」これまた呆れ顔でニックの独り言。
最後の最後迄ハラハラしっぱなしの展開、やっと同点に追いついても瞬く間に失点。
「マーティン、太り過ぎだ!」唸りながらニックの独り言。
そして本当に最後の最後、彼のフリーキック。
何よりも世界中で大嫌いな男の名前を、気持ち悪いぐらいに愛おしく叫ぶ2人の男・・・・・・
「デ〜ッビ〜ッド〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」ニックとアランの二人言。
今だけは、マンUもバーンズリーFCもそんなこと関係ない。
シャンパンの栓を高らかに開け、店中の客のグラスへ自ら注いでまわるイギリス人。
「今日は俺のオゴリだー!」
来日以来、そんなニック初めて見たよ。マザーテレサばりの慈愛に満ちあふれた行為。
まるでアメリカ人のようなフレンドリーシップ。
興奮冷めやらぬ翌日。本国の新聞全紙は、ベッカムをヒーローと讃えた記事を掲載した。
二日酔いの頭を抱え新聞受けへと向かうニック。
10/7日曜日、ジャパンタイムスを見ながら
「あ〜、夢じゃなかったんだ・・・・・」と、ニックは独り言。
喜びと怒りと哀しみを、包み隠さずに運んでくるサンデーペーパー。
その隅から隅迄、食い入るようにニックはいつも読んでいる。
バーンズリーFCが勝っていますように・・・・・・
そう願いながら、新聞受けに手を伸ばしているのである。
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