第20話

「これしかない!」


バーンズリー生まれ、バーンズリー育ちのニックとアラン。
当然のことながら、彼ら2人は自分達の町を誰よりも愛している。
しかしそんな彼らが、仕方なく町を離れる事もしばしばあった。
まずは一つ、我らがバーンズリーFCのアウェイゲームの時。
自分達の町のシンボルと共に、敵地に殴り込みに出て行くわけだ。
勇ましい男の船出といったところだ。
それ以外にもう一つ、ニックとアランが町の外へ出る理由がある。
果たして その真相は・・・。

当時パンク・ニューウェイヴ全盛期
UKロックシーンはマンチェスターを発信源に様々なバンドの宝庫であった。
「エコー&ザ・バニーメン」のイアン・マッカロウの髪型。
これをを真似した若者達は日本人だけではない、
そう恥ずかしながらニックもその1人であったのだ。
大胆にカットしたモミ上げ、それを囲むようにグイッと刈り上げ、
全体をゆるめのパーマでやさしく包んだ個性的なヘアースタイル(ツーブロック)。
カワイイ・カッコイイ・新しイイ!の三本柱で、世界中の若者を魅了した。

それを初めて雑誌で見た瞬間、ニックは「これしかない!」と心に誓ったそうだ。
(ちなみに、BBC2で「ジョイデヴィジョン」のヘタクソなライブを見た時も
「これしかない!」と衝撃を覚えたらしい。「これしかない!」というよりも「これもいいじゃん!」
が正しい感情表現であるが、ニック本人は「軽いインパクトではなかった!」
というニュアンスを伝えたかっただけらしい)

とにもかくにも雑誌の切り抜き片手に、早速地元の床屋へ駆け込んだニック。
思い込んだら、アランさえも止めることはできない。

「(切り抜きを見せながら)今日はこれと同じようにして下さい」とニック。

「なんじゃコレは?ニックよお、お前はガキの頃からオジさんにおまかせ!だったろー?」
と床屋のオヤジ。

「いつまでも子供じゃない!頼むからーやってよ!」と懇願するニック。

「こんなのオカマ野郎みたいな髪型!絶対やるもんか!
第一、お前のオヤジさんに申し訳ない」と床屋のオヤジ。 

すったもんだのやりとりの後、ニックだけでなくアランまでもが懇願。
ついには根負けした床屋のオヤジ、ハサミ片手に格闘し始めた。

「この角度の写真しかないのか?後ろはどうなってんだ?」とオヤジ。

腹をくくってヤルと決めたからには、プロ意識十分。
見えない部分にこだわり過ぎたあまり、その悲劇は起きた。
見事に完成したそれは、100%アン・オフィシャルの「なんちゃってエコバニ」。
どこをどう調整しても、もうどうにもならないアンバランスさ。
言葉を失うニックとアラン。その横で自慢げに笑みを浮かべるオヤジ。
この時2人は思った。

「仕方ない、だってバーンズリーだもんなあ・・・」

次の日ニックは(嫌がるアランを連れて)、マンチェスターへと旅立った。
目的はただ一つ。バッタもんの髪型を、本物のエコバニにするため。
髪型の失敗を衣装で取り戻そう!大作戦。
当時の有名ミュージシャンが着ていた洋服店が、ズラリと揃っていたマンチェスター。
イギリス第二の都市とは言え、バーンズリーに比べればそりゃもう超大都会!
マンUは嫌いでも、今回はオシャレをしに行くのが目的。
いつもの男の船出とは勝手が違い、少しだけ後ろめたい気持ちで町を離れるわけだ。
アウェイゲームの観戦ツアーで待ち合わせをするパブ、「ROYSTON LEGION」。
その前からは、コーチ(長距離バス)が発車していた。
深々と帽子をかぶり、その髪型を決して悟られないように、静かにシートにもたれていたニック。
かたや久々のお買い物で、ちょっとだけウキウキになってきたアラン。
陰と陽の2人を乗せたバスは、目的地マンチェスター・ピカデリーに到着。

「ザ・スミス」というバンドのギタリストであった、ジョニーマーが副店長を務める洋服店。
ターゲットはそこだ!パブで一杯やろうというアランの声には耳も貸さず、一目散に歩き出すニック。
やっと探し当てたその店で、黒のロングコートを遂にゲットしたニックであった。
ニックのマネをして、アランもそこで洋服を購入。
バリバリのUKロック・ファッションで、バーンズリーへと凱旋帰郷した2人。
そんな彼らを待っていたのは、パパと兄貴からの洗礼。

「いったいぜんたい、なんだその髪型は?TVにでも出るつもりか!ワッハッハッハーッ(笑)」

結局、兄貴に手を引かれて、例の床屋で丸坊主にされてしまったニック。
「だから言っただろ!でも、ちょっと自信作だったのになあー・・・」と、
ちょっと淋し気な床屋のオヤジ。

激動の2日間は、バリカンの音と共に崩れ去っていった。

そんなニックとアランが、今ではすっかり短髪を好んでいる。
自分に男の子ができた時、もしも変な髪型をしたなら、迷わず坊主にするらしい。

これしかない!