第3話
「JAPANESE PUB」
「いらっしゃいませ!何名様?」
ニックとアランが来日して、最初に好きになった日本語である。
学校で教えてくれない、生きた言葉。
ワーキング・クラス=庶民派の2人が選んだその場所は、
ジャパニーズ・パブ=居酒屋であった。
バーンズリーでは見たこともない、新鮮なスタイル。
畳の座敷、漢字で書かれた怪しいおしながき。
テーブルの隅には、七味唐辛子や正油のビン。
無造作に突っ込まれた割り箸。
おまけに安くて、メニューが豊富。
そしてもちろんビールがある。
その何もかもが、彼らをますます夢中にさせた。
まずは注文の仕方。
「とりあえず、ビール。ナマ。」
これが言えた日、アランは日本で生きていける気がした。
それに比べ、ニックには時間が必要だった。
初めての刺し身、ゴムに正油を付けて口にいれたような、例えようのない深い哀しみ。
フィッシュ&チップスに慣れ親しんだ味覚は、そうたやすく変わるものではない。
生の魚を、本当に美味いと感じるその日まで、2〜3年はかかった。
あれから10年近くになる。
今では、梅サワーの梅干を、割り箸の反対側でさりげなく潰すアラン。
刺し身にチョコットとだけワサビを乗せて、口にした後キューッとビールを飲み干すニック。
英国系/日本人オヤジも板についてきた。
そんな2人を見て、周りの日本人達も興味津々。
みんなが彼らに話しかける。場は盛り上がり、次々とお酌され、いろんなツマミを薦められる。
最後には、酔った勢いでおごってもらうこともあった。
「郷に入っては、郷に従え」
人情の厚い炭坑の町で育った2人にとって、どこか冷たい感じの東京も、そんなに悪くないと思えてきた。
同じく来日十数年、アメリカ人のジミーも居酒屋は大好き。
特に写真付きメニューがある、某居酒屋チェーンがお気に入り。
フライド・ポテト、オニオン・リング、ポップコーン、ソーセージ盛り合わせ。
いつものお決まり、アメリカン・オーダーのオンパレード。
それを見てニックが一言、
「おい!ファミレスじゃないんだから、居酒屋でアメリカ料理ばっかり注文するなよ。油っこいなあ。」
するとジミー「OK!それじゃあ・・・・・。ポップコーンはやめる」
ニック「・・・・・・・・・。」
ジミーの天然に負けたとしても、次はきっと勝つぞ!がんばれバーンズリー!
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