第14話

「ジミーの災難」

パーティー好きのジミーは、セントパトリックス・デーのその日、六本木のアイリッシュ・パブにいた。
シラフでも陽気なアメリカン・カルチャー。酒が入れば、もっと御陽気なハッピー・ジミーに変身する。
その場に、いじめっ子ニックがいなければ、尚さら彼のボルテージはうなぎ昇り。
道端のノラ猫にエサを与えたり、麻布の迷い猿を心配したり。
ディスカバリー・チャンネルのような、底抜けにやさしい彼のハート。
それはまさに永遠の少年、違う見方をすれば(いつまでも)子供のようで・・・。
イギリス人は毒舌と言うが、それは厳密に言うと辛口なのである。
カレーで例えれば、ジミーは「カレーの王子様」。
ニックは「フォンドボー・ディナー・カレー」といったところか。
東京在住の異国人同士、仲良く助け合えばいいものを。
ニックのいじめっ子な性格は、わかっていても抑えが効かない。

「ハリウッド映画のように、何もかもがハッピーエンドで終わるような現実はない!」

ときっぱり言い切るニック。
さすがはケン・ローチの映画で生まれ育った男のセリフ、重みが違う。
ジミーがいつも愛用している電子手帳がある。
アドレス欄のニックの名前の横には、「鬼」のマークが入力されている。
登録するということは、友達として認めている証しではある。
しかしそこに、わざわざマニュアルを見て、鬼マークを入れるという努力。
いじめっ子に対する、彼のせめてもの抵抗なのであろう。

今日はいつもにも増して、ゴキゲンなジミー。羽を伸ばして5パイント目に突入。
グラス片手にテーブルへ戻ると、そこにはいつの間にか合流したニックが座っていた。
「ハロー・マイト!」とニタニタ顔のニック。
「ハロー・デュード!」とジミーも笑顔で答える。(しかも親指を立てて)
軽い火花、しかし今日のジミーは負けてない。
ニックが登場するまでに温めていたハッピーパワーが、バイオレンス色を一掃していたからだ。
ニックの銃口に、花をつき差すフラワームーブメント攻撃!
ジミーの勝ち。久々の勝利の美酒に酔いしれた彼は、2軒目のクラブへと向かった。
アメリカン・ジョークで仲間を気遣うジミー。かたやカヤの外のニック。
いつもとは違う勢力図を塗り替えようと、じっとチャンスを待っていた。
飲めば飲むほど、バッドな方向へ走り出す。
そこへ、突然流れてきた曲はご存知「ロック・ザ・カスバ」!
赤鬼は、ずっとこの時を待っていた。
ダンスフロアーにダイブで突入すると、その輪の中にジミーを見つける。
それまでたまっていたものを一気に吐き出し、ぐっとジミーを捕まえた。
そして曲に合わせながら、彼の服を1枚づつムシリ取り始めたのだ。
まるで体育館の裏に呼び出され、丸裸にされたいじめられっ子。
ジミーは今にも泣き出しそう。ド迫力のその光景に、誰もフーリガンを止めることはできなかった。
約5分間の惨劇、フロアーには破けたジミーのトランクス。
まるでボロ布のように、それは転がっていた・・・。
それから3日後、さすがのニックも度が過ぎた事を反省し、ダイエーの下着売り場へと足を運んだ。
2枚入りのトランクスにメッセージカードを添えて、ジミーの元へ送ったのだ。
ふさぎ込んでいたジミー。それを手にすると大喜びで、早速新品のトランクスに履き替え
TA−BARへと繰り出した。
「みんな見てくれ!」と言ってジーンズを降ろすジミー。

「これは友達のニックからのプレゼントだよ!YEAH!」

「・・・・」(一同)。

プレゼントと弁償の意味も曖昧な、心やさしいジミー。彼も、バーンズリーFCが少しだけ好きになりました。