プロローグ

バーンズリー&バーンズリーFC

イングランド中部、サウス・ヨークシャー州にあるバーンズリー。
英国式ガーデニング庭園で有名な『バーンズリー・ハウス・ガーデン』がある町。
のどかで穏やかなスローライフを過ごすイメージとは裏腹に、
数年前に行われたイギリス国内のアンケートでは、訪れたくない町ワースト10に見事ランクインされた。
以前は炭鉱の町としてその名を馳せたが、80年代にはサッチャー政権の魔の手にかかる。
炭鉱閉鎖に伴い多くの失業者が溢れ、荒くれ者の住む町という印象が未だに残るようだ。

60年代中頃、その町で労働者階級の息子として生まれたニックとアラン。
幼馴染の2人はビールの産湯で洗礼を受けたその日から、大好きなフットボールチーム
『バーンズリーFC』と共に育ってきた。
ロンドンでもなく、マンチェスターでもなく、リバプールでもなく、
殆どの日本人には無名に近いイギリスの片田舎が彼らの故郷。
通称タイクス『バーンズリーFC』は町のシンボルであり誇りだ。
チームが負ければどこまでも悲しみ、勝てばどこまでも喜ぶ、その繰り返し。

不況のあおりを受け、仕事を求め故郷を離れたニックとアラン。
彼らが辿り着いた先はなんと東京だった。
エビスビールを飲みながら、彼らは今日も元気に生きている。
頑固だけど、一度好きになったらどこまでも暖かいハート。
酒と女性とロックとフットボールがあれば、難しいことはいらない。
どんなに辛い状況でも、ユーモアを忘れない彼らには脱帽する。
プレミアリーグ昇格を目指すバーンズリーFCと、東京で生きる2人の逞しいイギリス人。
『お元気ですか?バーンズリー』 
これは、ニックとアランの人生応援物語である。


イギリス映画界の巨匠ケンローチ監督の作品『ケス』はこの町が舞台。
ニックの実のお姉さんも出演している。
同じヨークシャーを舞台にした映画『ブラス』を想像していただけるとイメージとしては近い。

ライバルチームは南へ約20kmに位置する『シェーフィールド・ウェンズデーFC』
チーム・チャント(応援歌)に『If You are Wednesday Fan Surrender or You will Die〜』
という一節がある。
たとえプレミアに昇格ができなくても、ウェンズデーより上の順位であれば満足なのである。
06-07シーズンは、英国チャンピオンシップ(Div1)20位で終了した。


アラン


来日十数年。温和なアラン(お腹ポッチャリ)。
千葉県松戸の外国人ハウスで下積み時代を過ごす。
焼き肉屋のバイトで日本語を習得、夜な夜な港区に出没し日本人女性相手に語学力に磨きをかけた。
現在は外資系証券会社のサラリーマン。バーンズリー出身としては異例の成り上がり。
80年代のバンド『ABC』のボーカルはアランの同級生である。
来日間もない頃はスリム体型であった。CMのモデルをやっていたというキャリアの持ち主。
日本人のヒロミと既婚。


ニック


同じく来日十数年。気性の激しいニック。
酔うとクラッシュを大声で歌い、大嫌いなアメリカ人を見つけてはしきりに絡む。
酔ったときの早口で北訛りなブリティッシュイングリッシュは、英語とは程遠く理解不可能。
もちろん一旦変身したニックはもう誰にも止められない。
アングロサクソン人種とは・・・ニックみたいな感じなのかもしれない。
今まで付き合ってきた女性の影響と思われる、おネエ様言葉が時々垣間見えて楽しい。
現在は某私立高校の専属英語教師を勤め、暇を見つけては一人気ままな旅に出る。
中野ブロードウェィや神保町の古本屋街には、我々日本人よりも詳しかったりする。
最近の気がかりは、下北沢の再開発と、築地市場の移転問題。


いつぞやニックが故郷バーンズリーへ帰った際の話。
ママがニックの為に気を遣って米を炊いてくれたそうだ。
しかし、それを口にした瞬間一言

「マズイ」。

それを聞いたママはタメ息まじりに

「おまえも日本人になったんだねぇ」

と淋しい目で答えたらしい。未婚。